フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
<< Bambino main 小性のお勤め3・その1 >>
ブラックボックス
         

君の目の前には「卵」がある。


 

ああ、むやみに割ろうとしてはいけないよ?
そもそも割る価値は無いのかもしれないのだから。


 

触れて、嗅いで、見て、舐めて、比べて、温めて、置いて、浸して…
やるべき事はいくらでもあるじゃないか。


 

それでも最後には我慢できなくなるんだろうなぁ…
割りたくなる欲求を。


 

君の「卵」には何が入っていると思う?
やっぱり出てくるのはひよこなのかな。
いやぁ、案外「コカトリス」とか「フェニックス」…この家で育てば「ヴィゾーヴニル」なんて事もあるかもしれないね。
そもそも生き物じゃなくて「空飛ぶ船」が出てきたり、はたまた卵は「太陽を閉じ込めるための容れ物」だったり、卵を割ることで時間を加速させる「スイッチ」だったりする可能性だってある。


 

なんだい、その表情。
あ、ひょっとしてあるかもしれないって思ってる?それともそれは軽蔑の眼差し?


 

だけど僕達科学者は可能性を否定しない。
万人が知り得ない事実を知る一万一人目になる。
人が想像できることは、必ず実現できるんだ。


 

だから今日にでもあの屋敷に使いを出して例の三百年前の実験装置…


 

「却下だ」


 

…を譲ってもらう手筈を整え…あれ?


 

「僕…今、最後まで口に出しましたっけ、クラウス殿」


 

数瞬の間に起きた奇妙な出来事を反芻して、パトロンの動向を追う。
見れば既に部屋を出るべくドアノブに手をかける所だった。
…どうやら僕に与えられた時間は、あとわずからしい。



思わず視線を落として右手でこめかみを掻く。集中するときの僕の癖だ。
たとえ刹那に満たない時間しか無くても思考を止めてしまっては状況を打破できない。
昨日までの不可能を今日は可能にするのが科学者の矜持というものだ。


 

えっと…ほら、あの実験装置があれば…


 

「お前のためだろ」


 

…エリーゼの病状の回復に役に立つかも…え?


 

「あの…」


 

目を見開いて、頭を上げる。
が、彼は一顧だにしないまま部屋を出て行った。


 

「…口にもまだ出してないのに、どうしてわかっちゃったんだろうねぇ?」


 

部屋を訪れる前より幾分顔色の良くなったエリーゼに問いかけてみるも、当惑した表情を浮かべるばかりだった。




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