フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
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ロストワン

「マリアナ、紅茶がほしいな。うんと甘くて濃いのがいい。
 それに砂糖を削りだしてできてるんじゃないかっていう
 位の甘いお菓子があれば嬉しいなぁ…。
 体は動かなくてもいいんだけれど、頭を強制的に動かして
 くれるような糖分が理想だね。
 なにせ徹夜も三日続けば体はともかく頭がついてこな…

 ……?

 ――あれ?」



返事が無いのはいつもの事だけれど、それ以上の違和感を
感じて辺りを見渡してみる。
…どうやらマリアナはこの室内にいないらしい。



「……てっきりこの辺りの部屋にいると思ったのになぁ…。
 じゃあボクは一体どうやって紅茶を飲めばいいんだよ…」



これ以上探すのも億劫になって傍にある椅子に身を委ねる。
培養していた細菌が変化を見せ始めたのが75時間前。
その過程を観察するのが楽しくて一睡もせずにきた
けれど…今はそれもどうでもよく思えた。



「紅茶…飲みたいなぁ…」



なんだかもう一生このまま椅子から立ち上がれないんじゃないか
という気がした。
きっとボクはこのまま紅茶を飲むことも無く椅子の一部になって
人生を終えるんだ。



ああ、せめて今ボクが座っているこのテーブルに置いてあるのが
ユーリの眼鏡じゃなくて甘い紅茶だったらボクが椅子として人生
を終えることも……



――ん?



「珍しいなぁ…この館に来てからはそうそう外す事も無かったのに」



手にとって眼鏡をかけてみる。
視界はなにも変わらない。



「三人を連れてきてどれぐらい経ったっけ…」



ぼんやりと天井を見上げる。
今思い出してみても三人がこの館に来てからの移り変わり
は三者三様興味深いものだった。



端的に言うと



賢い姉は感情をすり潰して理性に細かく混ぜ合わせ
幼い妹は感情そのものの成長を意図的に止めた。



そうする事で感情と理性とのバランスを保ち
錯乱することを未然に防いだのだ。



事実、二人に関してはユーリのように暴走すると
いう行為は現在見られない。



そう、ただ一人ユーリだけが環境を変えてからも
膨れ上がる感情に対処できないでいる。



そこで催眠術のようなものをかけて強制的に感情
のスイッチを切る事を試みた。
殊更に「ヨルムンガンド」や「トール」といった
キーワードを用いたり、眼鏡をかけさせて外見上
の変化を意識させるのもその一環だ。



今の所その試みは功を奏している、ただ…



「トールも最後はヨルムンガンドと相打ちだったと
 いうし程々にしないと……ん?それなら今の内から
 もう一つくらい催眠を施しておくのはどうかな?
 いやぁ、それだと意識が混在しすぎて多重人格に
 なる恐れが…あれ?そもそもなんでボクはユーリ
 の眼鏡をかけてるんだっけ…?」



この部屋に来た目的はなんだったのかわからなくなった
まま、ボクは思考の海底へ沈んでいった。



科学者 レオン - -