フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
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真実≠過程
         

平穏。
日常と平和。
静謐なひととき。



追悼セレモニーを終えて数日、ボクの研究室には
久しく安穏な時間が訪れていた。



ボクにとっての安穏とは知的欲求を貪る…要するに
やりたい実験やら検証を気が済むまで続ける事を指す
んだけれど…



あのセレモニー以降、やりかけの数々の実験を放り出し
ボクの興味はただ一点に注がれていた。



つまり、この小瓶の中身だ。



数年の歳月を費やして明らかになった解析結果、そして
エリーゼの話を総合するといくつかの事実が浮かび上がった。



生成するには非常に困難を極め、ごく限られた環境でしか
手に入れる事はできないであろう事。
自殺したと思われるリーネ殿の傍らにあったこの小瓶の
中身は、毒性は皆無であった事。



これらの事実を踏まえてなお、その成分・効能・副作用には
多くの未知が残る。
けれどあまりにも稀有で希少で類まれな特筆すべき点があった。



意図的な記憶の喪失。



どれぐらいの期間の記憶を喪失させられるのかはわからない。
ここ数日の記憶か、もしくは数ヶ月分か、はたまた数年か…。
また記憶を喪失していられる期間も数日という話だ。



実用として用いるにはあまりに不安定な代物。
だけど…もしその機能がコントロールできるのだとしたら…?



エリーゼの病は治せるのかもしれない。



数値的には「健康」と言える範囲内の人間だ。
体の不調の記憶を全て消去できれば…健康だった頃の記憶まで
遡れれば…「病気」という分かれ道に足を踏み入れる事なく
「健康」の道を歩めるんじゃないか?



だから



今すぐこの薬をエリーゼに使えば



ダメなら何度か改良を重ねて実験をすれば



いやエリーゼじゃなくても構わない



そうだユーリがいるじゃないか



それがダメならマリアナでもミカエラでもリクでもロイドでも




『そんなの不謹慎です!!!』



頭の真後ろで雷が響いたような気がして即座に振り返る。
そこには誰もおらず、しばらく辺りをそそくさと見渡してみた
けれど、やっぱり誰もいなかった。



「ん〜……」



一度椅子の上に胡坐をかいて座りなおしてみる。
二、三度体を左右に揺らしてみる。
なんだか急に気恥ずかしくなって頬をかきたくなった。



「これは…まずボク自身に使ってみる方が先決かな」



それでも今度はプラ…いや、ディーナっていう名前を
忘れないんだろうな…。



今日はもうなんだかいいやと思って、マリアナの淹れてくれる
紅茶でも飲もうとボクは研究室を後にした。



科学者 レオン - -