フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
<< 衣食足りて礼節を知る main 小姓のお勤め3・終 >>
存在の軌跡

         

午前中はホールの掃除を一通り、
午後の空き時間に銃の手入れをすこし、
ティータイムが終わったら、書斎の掃除。


他の部屋に比べてシンプルな書斎は、どんな時間帯でも快適な室温。
本棚に阻まれ薄暗く静かだから。
冬よりも幾ばくか、紙の匂いも濃い。


『ヴェサリウスのファブリカ』という耳慣れない言葉を聞いたのは、最近、ここでだった。

 

書斎の奥へ足を進める程、古びた紙の匂いが徐々に濃くなる。
すると、その日はそれと共に、人の声も聞こえてきた。

一種類の声しか聞こえなかったため、独り言だろうと思ったが、
それにしても大きい。


「ドクトル」


最も奥、壁際の本棚の床は散らばった本で埋め尽くされ、その中心に白衣の男が座っていた。
使用人が来たことには気付いていないらしい。


「こんな所でこんなに保存状態の良いきみに出会えるなんて思ってもいなかったよ、ヴェサリウスのファブリカ!」


きみはいつ読んでも僕に新たな発見と水水しい発想を与えてくれるんだよ、
と、ひどく興奮した様子で分厚い本に話しかけている。

瞳はキラキラと輝いていて、恭しくハードカバーを撫でている。
この状態のドクトルには、何を話しかけても意味がない。

その日は、白衣の男に背を向け、書斎を後にした。

 

先日と同じように壁際の本棚から、と歩みを進める。
しかし様子が違う。


本棚には大きさが同じの本が隙間なく並んでいた、と記憶しているのだが、
今日は大きな空間がある。


おそらく、そのファブリカなのだろう、と検討をつけてみた。

 

その本の行方には興味はないけれど。




従僕 ユーリ - -