フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
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名多き意味
         




 『クラウス様!』



 『クラウス殿〜』



 『マスター』




 『お兄様』









 「・・・・なんだ。」








 いつも思うのは、皆呼び方が違うことだ。
 私に限ったことではなく、各々で呼ばれる名が異なる。

 今となっては慣れた事だが、不思議なものだ。
 本当の名は一つだというのに。





 別名が多い事で有名なものといえば、オーディンがいたな。



 グリームニルの歌の一節に、

 『我が名は、グリーム、ガングレリ、ヘリアン、ヒァールムベリ、セック、スリジ、スズ、ウズ、ヘルブリンディ、ハール、サズ、スヴィパル、サンゲタル、ヘルテイト、フニカル、ビレイグ、バーレイグ、ベルヴェルク、フィヨルニル、グリームニル…「グラプスヴィズ、フィヨルスヴィズ、シーズヘト、シーズスケッグ、シグフェズル、フニクズル、アトリーズ、ファルマチュール、ゲンドリル、ハールバルズ、キャラル、ヴィズル、スロール、ユッグ、スンド、ヴァク、スキルヴィング、ヴァーヴズ、フロプタチュール、ガウト、ヴァラチュール。



 オーディンについて考察ですか?」 




 「・・・」



 「神話なんて持ち出して、どうしたんですか。 クラウス殿」



 「・・・今、」



 「口に出ていましたよ」





 顔を上げると、すぐ隣で机に寄りかかって分厚い本を開き、それに目を落とす奴がいた。

 私としたことが、気付かなかったなど。




 「オーディン。北欧神話に登場する偉大なる神。その地位はゼウスと並ぶものと言われていますね。

 このおびただしい名の数は、この世界にはたくさんの言葉・・・言語があって。
 すべての国民が神に呼びかけ、己れのことを祈願するのに、神の名を自分のことばになおす必要があると考えたことから生れた・・・。
 これらのきっかけになった出来事のいくつかは、オーディンの旅で起っている。


 っていう、文献を6年前くらいに読みました。


 どうして調べたんだっけなあ・・・。
 神なんてものほどそれはそれは不確かで、曖昧なものはいないですよね」


 「貴様が神を信じているかそうでないかなど興味はない。

 勝手に部屋に入るな」



 「ノック、しましたよ」



 「返事がなければ入ってくるな」



 「すいませんでした。
 でも、たくさんの呼び名があるのは誇らしいことですよね」



 「何?」




 すいませんと緩い表情で笑顔を作ったレオンは、その目をうっすらと細めた。





 「その人なりにその人を解釈する必要があって、それを十二分に理解した後にその人に従うにあたって彼は自分にとってどんな存在で、どうあるべきか。それが呼び名になると思うんですよね。
 ちょっと深読みですけど・・・「くだらない。



 では、お前にとっての私とはどんな存在だと?」




 「ほら例えばゼウスなんて・・・、 ・・・え?



 ・・・んん、 ・・・僕ですかあ」






 その皮肉をこめた問いに、レオンは頭を抱えて文献の言葉を並べて考え始めた為、それを聞く必要もない。

 気付けばまた部屋からいなくなっているだろう。



 私も机上の書類に再び目線を落とし、ペンを走らせた。




長男 クラウス - -