フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
<< 科学のできない一日 main regret >>
最高の食事の準備が整っていたところなのですが。

         


やはり上等な食事の場には上等なワインが似合います。

栓を開けた瞬間に広がる芳醇な香り、

無機質な卓上が一瞬で花畑に変化したような…、


…ムギョッ?


なんですか、この、

私の創り上げた最高のル・ディネの場をどす黒く塗りつぶすような、

不快極まりないピュアントゥールは…っ!!!

 

えぇ、犯人はおのずと解ります。

こんなにおいを発するのは、

土いじりばかりしているあの凶暴極まりないギャマンか、

清潔感の欠片もないあのドクトルのどちらかでしょう。


そして、

当主の食事の場に何も言わず堂々と入ってくる無神経さからすれば、


「…やはり、貴方でしたか。ドクトル。」


相変わらず人目など気にしないぼさぼさの髪の毛、だらしない服装、

何処で着けてきたのか検討も付きませんが肩には鳥のフン。

薬品臭さと相まって悪臭の不協和音ですね。

近付くだけで花が枯れ、空気がよどみ、
食品が腐りだすのではないかと不安になります。



できれば早々にお引き取り願いたいところですが、
こういう時の彼は決まって、
何か私に「おねだり」をしてくるのも解っています。

折角のワインの香りを損なわないよう廊下に出るよう促し、
出来る限り距離を取って用件を伺いましょう。

すると彼は、非常にゆったりと口を開き、

そして段々と感情が高ぶるにつれて早口に、私に語り始めました。

 

 

 

「実はさぁ、 館の近くで こんな物を見つけたんだ 。

 
真っ赤なカサに 白色の斑点、そう、君の欲しがっていた アマニット ・ トゥ ・ モーシュ だよ!!!


実は 見つけたわけじゃなくて、マリアナが処分しようとしていたところをたまたま貰い受けたんだけれど


ほら、これって有名な毒キノコだろ?

毒性とそれに相反する旨味が特徴だって聞いてさ、早速毒性の抽出と動物実験を始めたいと思ったんだけど、彼ら野生動物って天性の危険察知能力があるみたいで毒だと判断したのか、生のままだと全く食べてくれないんだ。

そこで君は料理人だろ?これの毒性を変えずに表面的な味や香りを調理によって変性させれば動物が持つ危険察知能力を掻い潜る事が出来るんじゃないかって思い付いたらそこの実験結果が気になって仕方がなくなっちゃてさぁ


「お断りします。」


で僕ときたらこれが毒物だって知ってるから実験にならないし、使用人なら何の疑いもなく口にするだろうからこのデータを収集するにはどうしても君の協力が…

…ぇ?」


独特な台詞の間に割って入るようにしてお断りの返事を突き付けさせていただきます。

私はただ単純に美味しいものを追求したいだけです。

貴方の変な実験の材料にされるつもりも実験動物の餌を調理る(つくる)つもりも毛頭ありません。


「そんなぁ… ひとカケラだけでいいんだよ、それで僕の」


「言っておきますが!まともに食事も摂らない、人が作った食事も召し上がらない貴方が料理人である私に『注文』する資格はありません!それでは私は食事の準備がありますので失礼!」


「…ぁー。」

バタン、と勢い良く扉を閉め、私は食事の準備に戻りました。



まぁ…彼のことですから、

またすぐに他の事に興味を持って、

今のやり取りなど忘れてしまうのでしょうけどね。




料理長 ロイド - -