フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
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困惑する心
         

大きな窓、風に靡くカーテン、強い日差しの暑い夏。
けれど、窓を通る風で幾分か過ごしやすい、そんな一室。

マリアナが入れてくれた紅茶を飲みながら、手元の本へと視線を落とす。

時折窓から吹き抜ける風の音、ページを捲る紙の音。
そんな静かな時間。

そんな時、
開け放った窓から、何やら怒鳴り声。

「…!  …………!!!」

「…………………」

耳をすませば聴こえてくる、聞き慣れた声。

ユーリとリクだ。

ふと、その声に記憶が浮かび上がる。


―デジャヴ―


そうだ、この間も同じだった。

隣で紅茶を入れていたのは、姉のマリアナではなく、ユーリだったけれど。

ユーリとリクが言い争いをしていたのは、庭ではなく私の目の前だったけれど。

次いで響く乾いた音、その音に身体が小さく反応する。
目の前には倒れているユーリとリク、背を向けて立っているお兄様。

自分に向けられたものでなくても、反応してしまう。
それが親しい人であれば尚更、大好きな人であれば尚更。



「エリーゼお嬢様?」

ふと、マリアナの声で我にかえる。

「あぁ、ごめんなさいマリアナ、ちょっとぼんやりしていたみたい。
この暑さにあてられたのかしら。」
焦り取り繕い、暑さのせいにしたけれど、彼女の表情のない顔には見透かされていそうで。

「何か冷たい飲み物をお持ちしますか?」

「いえ、大丈夫よ。そうね…もうそろそろ、部屋に戻るわ。」


「…かしこまりました、では部屋までご案内を…」
そう言い、マリアナは私の前に屈み手を差し出す。

「大丈夫よ、部屋までの距離なら1人で平気。紅茶、美味しかったわ、ありがとう」
マリアナの手をやんわりと押し返し、逃げるようにその場を後にして部屋へと歩みを進める。


あの日以来、足に異変はない。
あくまで今のところは…だけれど。

けれど、また急に動けなくなってしまうのではないかと思うと…。



二女 エリーゼ - -