フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
Like the moth flying into the ****

         


厨房から大きな音が聞こえました。


お姉様と顔を見合わせましたが、お姉様は驚いていません。
私もきっと、同じ顔をしているのでしょう。



お姉様が何事もなかったようにシーツの繕いを再開したので、私もそうすることにしました。

 



「だ か ら ! 私は在り来りなメニューにはもううんざりなのですよ!!!」



ちょうど厨房の前を通りかかったとき、シェフの声が廊下まで響きました。

シェフ見習いさんの声もします。



シーツの繕いが終わったらナフキンの洗濯をしなければならなかったので、
いつもより騒がしい厨房へ足を踏み入れます。



「客人がビックリするようなル・ディネは、食材から! 食材からド肝を抜くものでなくてはならないんです!!!」

「誰も食べたことがないような…そう、あのキノコとか! あれは惜しいことをしました…」

「しかし! それ以上のものがあるはずなのです! い〜や! 世界は広いですから、どこかに必ずあるのですよ!!!」

「私のセンスと味付けに合う、誰も食べたことのない食材が! ギョギョ〜!」

 

シェフは興奮した様子で、シェフ見習いに話かけています。
私に気付く様子もありません。


 

「例えば、そうですね… … 幻の生物、ですとか」

「いるかいないかわからない! しかし、らしきものを見た者はいる!」

「私の料理にピッタリの食材のはずですギョギョギョ〜!」


大きな音、とは、これだったのですね、お姉様。


 

「それを探しに行くのです、レミ! 時間はありませんよぉ!!!」


包丁を両手に握り締め、窓枠に足を掛けるシェフを、シェフ見習いが力いっぱい引き止めています。
時間がない、とシェフはおっしゃっていますが、探しに行く時間はさらにない、とシェフ見習いは諭します。


追悼パーティは、もうすぐ。



 


「むむむ… だったら、代わりに誰か探しに行ってもらいたいのですが…。…ギョギョ…?」

 





 

パチリ、と音がして、シェフと目が合いました。




メイド ミカエラ - -
The calm before the *****

         

朝露が葉を濡らすとある朝、広い庭の片隅に、
銀とも白とも言えない花が咲いていました。

お兄様がよく磨いているシルバーの銀色よりも白く、
お姉様がよくお洗濯しているクロスの白よりも銀色でした。

その花をじっと観察していると、
だんだんと肌に当たる風が暖かくなってきます。



明るい朝でした。



一羽の鳥が、薔薇園を横切って、お屋敷の方へと飛んでいきます。


途中、噴水のいちばん高いところで羽を休め、羽を広げて身体中の朝露を飛ばしています。

あの色の鳥はよく見ます。
このお屋敷の紋章にも鳥がいます。


お屋敷のどこかに、あの鳥の巣があるようです。


飛び出した鳥は、一直線にある窓を目指しました。




あれは、
ドクトルの部屋のようです。




メイド ミカエラ - -
黒揚羽が舞う海
         

お姉様、お兄様、おはようございます。

昨夜はよく眠れましたか?






最近、
エリーゼお嬢様のお部屋に出入りするドクトルのお姿を、前よりも多くお見かけするようになりました。

ご気分が優れないのか、心配です。


尋ねることはしませんでしたが、エリーゼお嬢様は

「心配かけてごめんなさい。大丈夫よ」

とおっしゃいます。


お嬢様はそうおっしゃいますが、そうは見えません。

私は、お嬢様のお身体の具合も心配ですが、不安そうな表情をなさるお嬢様のご気分も心配です。


リクさんとシェフがお互いに暴力を振るっていたり、リクさんとお兄様が睨み合っていたり、リクさんがドクトルの襟元を掴んでいたり、
そういった姿をご覧になるお嬢様の瞳は、不安そうで、悲しそうなのです。


「喧嘩はやめて、リク、そういった言葉は言わないで」

とお嬢様はおっしゃいますが、頭に血の昇ったリクさんには聞こえていないようです。


「殺すぞてめぇ、このクソコック!」


お嬢様がまた泣き出してしまいそうな顔をなさいます。






どうしたらいいのか、私にはわかりません。
ですので、お姉様に相談してみようと思います。



メイド ミカエラ - -
marionnette
          

エリーゼお嬢様がおっしゃいました。


「この薔薇、とても綺麗ね」


その言葉に、私も申し上げました。


「はい、とても綺麗ですね」



確かに美しいのです。
花弁の一枚一枚が水水しく輝き、破れてしまいそうな薄さで八方に広がっています。
白とも黄とも言えないその色も、漂うその香りも、美しいのでしょう。

エリーゼお嬢様にとっては。



「ユーリが摘んで来てくれて、マリアナが持ってきてくれたの」



何を思っているのか、エリーゼお嬢様はそれを見て微笑みます。

悲しいのでしょう、エリーゼお嬢様は。



私とエリーゼお嬢様は同い年ですが、もちろん、エリーゼお嬢様がお元気だった頃は知りませんが、
年相応に無邪気に笑うお嬢様が明瞭に思い描けます。



そして私はそれを
誰かが微笑む笑顔を懐かしく思うのです。



メイド ミカエラ - -
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