フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
終わらない鎮魂歌
         

あの日と同じ嵐。
間近にせまる、追悼の日。
お屋敷の長い廊下を歩いていると、
もう1つ、思い出されることがある。

あの日・・・
廊下ですれ違ったエリーゼ様の表情。

なにが起きたのかわからないといった、
不安げなお顔でいらっしゃった。

それからというもの、
お嬢様のお顔には、時折暗い影が見えるようになった。

もちろん使用人たるもの、気がついたことへの報告は怠たらない。
だが、ハインリッヒさんへ報告しても、
「リーネ様の亡くなられた後だから」
の答えのみ。
そして、「これ以上の詮索は不要」という、
無言の圧力。

もちろん自分の本分は忘れてはいない。
ただ、ルーデンドルフ家の所有物として、
成すべきことをなすのみ・・・

ただ・・・もしも・・・
もう少し、確固たる地位と力を保有していたならば、
もっと真実に近い場所に居られたのだろうか?
もし、そうならば、残念に思う。

追悼の日
館全体が静かに奏でる
終わらない鎮魂歌

その日には、真実に繋がるなにかが、
あるのだろうか?



従僕 モーゼス - -
雨という名の涙

リーネ様の追悼パーティーは
エリーゼ様の体調不良と、わずかな騒乱によって
幕を閉じた・・・


ようだ。


私のような使用人が、なにが起きたのかなどと
真実を求める事は許されない。
しかし事実その時は、プラエトリアニの一人が担ぎ出され
またエリーゼ様は、その直後から体調を崩された。


何かの因果関係があると思うのは、自然な流れだと思う。


リーネ様の追悼のパーティーにおいて
プラエトリアニが騒乱を起こしたのか?
いや・・・プラエトリアニに限って、そんなことはないと考えたい
彼らはそれだけの存在だ。


では一体何が・・・?


パーティーの直後より降り出した雨は
日を跨ぐころには嵐へと発展した。
まるでリーネ様を追悼する涙雨のように・・・


だが・・・もし・・・
これがリーネ様への追悼の涙雨ではなく
他の者にたいしてのものだとしたら・・・?

暗黒の空は、その疑問にも答える事無く
雨を降らせ続けていた。




従僕 モーゼス - -
追憶
         

あの日の事は良く覚えている。

リーネ・ドミニク・ルーデンドルフ様がなくなられた日

いや、現実には翌日に事実だけを告げられたのだが
あの日、使用人でも上級使用人しか入れない奥の別間へ
家令のゴードンさんや執事のハインリッヒさんそしてメイド長のマリアナさんが
慌ただしく出入りしていた。

それだけでなにかあると気がつく。
私も含めた他の使用人たちは
大量のお湯と、清潔なシーツを用意して
待機を命ぜられた。

そして、遅い時間にそれは解除された。
待機解除を伝えにきたゴードンさんの目が険しかった。


告げられた事実。


それからは毎年の如く、追悼のパーティーが開かれる。
そう毎年。


あの日は・・・
今日のように嵐の日でした。
追悼パーティーでは、晴れとは言わなくとも
涙雨には、なって欲しくないものです。



従僕 モーゼス - -
次への準備と葛藤
         

9月に行われる、リーネ様追悼のパーティー
この日ばかりは、お屋敷全体が喪に服す
毎年のことではあるが、いつまで続けられるのだろうか?
故人を偲ぶのは必要かもしれないが・・・


いや・・・使用人たる私には、出すぎた事か
しかし、このパーティーに未来への建設的な結果はないと
自身の心が告げている。


だが・・・

私の身分は、その判断に関与する事は許されない。
更に、このように考えることすら、許される事ではない。


使用人の使用人たる分際とするならば
それは、このパーティーを確実に成功させるよう、
自らの本分を全うするのみ。
それが所有物としての勤め。


心や感情など
求める結果のためには
不必要な要素でしかない。


もちろん、お越しになるお客様には最善を尽くし、
おもてなしをさせていただく事に間違いはないのであるが・・・



従僕 モーゼス - -
落ち始めた砂時計
         

本日は、Flugel des Hrasvelgrへお越しいただき、
ありがとうございました。

お屋敷にて過ごされた時間は、如何だったでしょうか?
皆様のお世話をさせていただいた者の一人として、
最上の時間を過ごされたものと、願わずにはいられません。


最後のお客様を見送り、
馬車が見えなくなる僅かな時間の中で、心で問いかける。
もちろん、その問いに対する答えなど、
返ってくるはずもないのだが・・・


自らの仕事の成果を、
形のある結果として、見てみたいという欲求に襲われる。
このような時、ハインリッヒさんは何を考えているのだろうか?


夜の帳が降りた。
お屋敷は、いつものごとく静寂に包まれ、
そして、何事もなかったかのように、時は流れていくのだろう。

だが・・・もし・・・
時を奏でる時計の傍で、
新しい砂時計が砂を落とし始めていたとするならば、
その静寂はどう変化するのだろうか・・・?



「さあ、次の仕事に参りますよ。」


はい、畏まりました。



従僕 モーゼス - -
仕事と感情
         

「・・・・です。よろしいですね?」

「畏まりました」


燕尾服に身を包んだ青年の前で一礼し、その場から歩き出す。

それにしても、若くしてこのお屋敷の執事を務められている、

ハインリッヒさんの指示は的確だ。

ホールにある柱時計の針の如く、

必要な情報だけを、わかりやすく正確に示してくれる。



この広いお屋敷の中で仕事を進めていく為には、

感情といった余分な要素を含めていては非効率的だ。

そういう意味では、

今、私の目の前を無表情のまま、通り過ぎようとしている彼は、

感情の制御を徹底していると評価できる。



ユーリ・ディートヘルム・バルツァー



このお屋敷でメイド長をしている、

マリアナ・イルムガルト・バルツァーの弟・・・

私が言うのも失礼な話だが、

この姉弟は、与えられたどんな仕事も淡々とこなしていく。

やはり仕事に感情は必要ない事への裏付けだ。



「てめぇ!どこ見て歩いているんだよ!」



背後から聞こえる、生の感情むき出しの声、

ユーリの胸倉を今にも掴み掛かりそな勢いなのは・・・

リク。

リク・スヴァンテ・アルムフェルト、庭師の少年。


騒々しい・・・

だが、彼のように感情をむき出しにしても、

評価される仕事はある。

要するに、適材適所が重要ということか。


フン

仕事に集中するとしよう。





従僕 モーゼス - -
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