フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
心配
         

夏だと言うのに、館は異様な寒さに包まれている。

そんな寒さに震え、目を覚ます。
また泣き疲れて眠ってしまっていたのね。。

ベッドから起き上がろうと手を着くけれど、ふっと力が抜け再びベッドへ沈んでしまう。

あんな事があったからなのか、或いは食事をまともに摂っていないからなのか…
いつも以上に身体が思うように動かない。

そのままベッドで考えを巡らせていると、
控えめに扉をノックする音がし、次いで私の名前を呼ぶ声。

扉越しに、あえてあの日の事には触れず、身体を心配するお兄様。

あの時、今まで隠してきた事を伝えて、
ほんの、ほんの少しだけ、すっきりしている私。

でも、だからこそ、お兄様に合わせる顔がない。

「大丈夫よ、お兄様。
でも…今とても酷い顔をしているから
しばらく会えそうにないわ…ごめんなさい。」

泣き腫らし、酷い顔をしているのは本当、
大丈夫だというのは嘘。。

せめて食事はちゃんと摂って欲しい、とだけ言って
扉の前にあった気配が遠のいていく。



そういえば、あれからレオンのラボで目を覚まし
しばらくしたところで、レオンに連れられディーナがやって来て…
何だか様子がおかしかった気がした。

と言っても、あの時はあまり気にすることができなかったのだけれど。
何かあったのかしら…。



二女 エリーゼ - -
Lacheln

         
お兄様はパーティーに向けて書類整理に追われている。

ハインリッヒはそんなお兄様に付きっきり。

ユーリは必要な備品の用意を。

マリアナはいつものようにお茶を入れてくれる。

ミカエラは屋敷の外での仕事をしているようで、しばらく姿を見ていない。

ロイドとレミは殆ど厨房に籠りきり。

レオンも同じように研究室に籠っているのだろう。

一方、ブルーノとリクは庭のお手入れで外に出ずっぱり。

モーゼスやカレンも、それぞれの仕事に追われているのだろう。



お姉様の追悼パーティーが近付くにつれ、それぞれの仕事が忙しくなり始め、
何もすることができず、部屋にいるだけの私のもとを訪れる回数も減った。
それでも合間を縫って、来てくれるのだが…以前に比べると笑顔がないのだ。

忙しくて疲れている…だけではないのだろう。
きっと、それぞれ違ったお姉様との思い出があるから。



いつも美味しい紅茶を用意してくれるマリアナとユーリ。

心配して花を届けてくれるリク。

食欲がないと言えば、食べられそうな物を作ってくれるロイドにレミ。

毎日決まった時間に診察に来てくれるレオン。

お兄様の事を思って、様子を見に来てくれるハインリッヒ。

そんなハインリッヒに言われて、少しでも出してくれるクラウスお兄様。



何もできないのなら、せめて私のもとを訪れる皆を笑顔で迎えよう。

きっと、追悼パーティーの日はうまく笑えないだろうから。



二女 エリーゼ - -
Schuld
         

事の発端は、私がノアから薬を受け取った事から…
いいえ、もっと前
お姉様が傷つけられた事からだったかもしれない。

屋敷の奥の部屋に閉じこもっていたお姉様に、
両親やお兄様に内緒で会いに行ったあの時
大丈夫だから心配しないでと言ったお姉様の言葉が別の言葉に、
私を責めているように聞こえて。

お姉様はあんな事は言わないとわかっていても、それでも…



……あなたのせいよ、エリーゼ!あなたがそう望んだのでしょう!!……



違う、違うのお姉様。
そんなつもりじゃなかった…ただ
戻ってほしかった。
一緒にいてほしかった。

私はそんなお姉様が怖くて、前のように一緒にいてほしくて
ノアから受け取ったあの薬をお姉様に使った。
魔法の薬だと言うノアの言葉を信じて。

でも、お姉様は亡くなった。

ノアが言うには、あの薬は毒ではないと。
ただ、ほんの数日記憶がなくなるだけだと。

それでも…中身がなんであれ、結果的には同じ。。

ノアは私に薬をくれた、でも私はそれを自分ではなく
お姉様に使ってしまった。

記憶のないまっさらな状態で、鏡にうつった自分の…あんな姿を見て、何を思ったかしら。
きっと驚いたでしょう。。
混乱したでしょう、恐ろしかったでしょうに…。

それなのに私は…
きっと、これでもうお姉様は大丈夫だろうと安心してしまった。。












追悼パーティーから数日、あの時のお姉様のように
今度は私が部屋に閉じこもっている。

「ねぇ、リク…やっぱり、私はひどい妹でしょう…?」

誰もいない部屋には自分の声がよく響いた。



二女 エリーゼ - -
小さな隠し事
          

          

日課になりつつある、庭のテラスでのティータイム。

ただ、今日はいつもとは違う点がふたつ。
ひとつは、傍に控えているのが一人ではないという事
もうひとつは…お兄様に会いたくなくて逃げてきた、という事。



自室で足元がふらついたときに腕をぶつけてしまい、
痣になってしまったのを見られたくなくて…。
…お兄様が見たら、きっとまた心配をかけてしまうから。

でも、幸いな事に、近頃お兄様と会う機会は殆どなくなっている。
追悼パーティーが近付くにつれ、使用人だけでなく
お兄様もきっと準備でお忙しいのだろうと思う。

それでも、きっと館の中にいたら会ってしまうから。
…まあ、いずれ診察の時になれば…
ドクトルを通じて、お兄様にもばれてしまうのでしょうけど。



また、今日はマリアナとミカエラの
二人が近くに控えているという事。

最近は私の身体を心配して
常に誰か一人が傍に控えているのだけれど、
今日のそれはマリアナだったようで
本当はこっそり一人で来るつもりだったのに
自室を出た途端に見つかってしまった。

そうしてマリアナが「今日のお供」だった訳なのだけれど、
今日は何故かミカエラまで一緒。
ミカエラの方はたまたま、などではなく、
どうやらはじめから一緒に来るつもりだったようで
仕事を殆ど終わらせてきたらしい。

最近は追悼パーティーの準備で忙しいはずなのに…こうして心配してくれている。
こうも心配ばかりかけていては申し訳ないのだけど、それでも少し嬉しさを感じてしまう。




追悼パーティーまでもうすぐ、
誰にとっても辛い日だけれど、私にとってあの日は…




ふと目の前に影ができたことによって我にかえる。
ミカエラが少し屈み、顔を覗き込んでいた。
「エリーゼお嬢様、顔色が優れないようですが…」

それに続きマリアナの声。
「そろそろ自室にお戻りになられた方がよろしいのでは。」

あぁ、はっぱり彼女達は表情こそないものの、相手の表情の変化にはすぐに気づく。
ユーリも含め、あの子達は鋭い。

「大丈夫よ、でも…そうね、そろそろ戻ろうかしら。」




お姉様の追悼パーティー…
きっと沢山の方がいらっしゃるのでしょうね。

お姉様は、とても素敵な方だったから。



二女 エリーゼ - -
内緒のお茶会
         
 
相変わらず暑い日差しが続いている。
それでもここフレースヴェルグは、よそに比べれば涼しい方だと思う。

ブルーノやリクたち庭師によって綺麗に整えられた
木々や花々たちは、涼しい風を運んできてくれている。
こまめに水を撒かれているおかげなのかしら…?
そして、そこに立つ真っ白なテラスは、この館中で最も涼しい場所。

いつもなら自室での読書兼ティータイムも、今日はそのテラスに場所を移して。

ここのところ、ずっと自室に籠りきりだったから、
気分を変えたくて…というのもあるの。
ときどき身体が思うように動かなくなることもあるから、
お兄様からあまり出歩かないようにと言われてしまって…。

とはいえ、それも直接ではなく、ドクトルを通して伝えられたこと。
心配してくれるのは嬉しい…、…でも、これでは精神的に参ってしまうわ…。

それで、ユーリに無理を言って頼み込み、
このテラスでの一時のティータイム…という訳なの。

でも、内緒で出てきてしまったし、そうそう長居はできない。
もう戻った方がいいかしら…?










…あぁ、それにしても暑い。
この暑さは、お姉様の追悼パーティーまで続くのかしら。



二女 エリーゼ - -
困惑する心
         

大きな窓、風に靡くカーテン、強い日差しの暑い夏。
けれど、窓を通る風で幾分か過ごしやすい、そんな一室。

マリアナが入れてくれた紅茶を飲みながら、手元の本へと視線を落とす。

時折窓から吹き抜ける風の音、ページを捲る紙の音。
そんな静かな時間。

そんな時、
開け放った窓から、何やら怒鳴り声。

「…!  …………!!!」

「…………………」

耳をすませば聴こえてくる、聞き慣れた声。

ユーリとリクだ。

ふと、その声に記憶が浮かび上がる。


―デジャヴ―


そうだ、この間も同じだった。

隣で紅茶を入れていたのは、姉のマリアナではなく、ユーリだったけれど。

ユーリとリクが言い争いをしていたのは、庭ではなく私の目の前だったけれど。

次いで響く乾いた音、その音に身体が小さく反応する。
目の前には倒れているユーリとリク、背を向けて立っているお兄様。

自分に向けられたものでなくても、反応してしまう。
それが親しい人であれば尚更、大好きな人であれば尚更。



「エリーゼお嬢様?」

ふと、マリアナの声で我にかえる。

「あぁ、ごめんなさいマリアナ、ちょっとぼんやりしていたみたい。
この暑さにあてられたのかしら。」
焦り取り繕い、暑さのせいにしたけれど、彼女の表情のない顔には見透かされていそうで。

「何か冷たい飲み物をお持ちしますか?」

「いえ、大丈夫よ。そうね…もうそろそろ、部屋に戻るわ。」


「…かしこまりました、では部屋までご案内を…」
そう言い、マリアナは私の前に屈み手を差し出す。

「大丈夫よ、部屋までの距離なら1人で平気。紅茶、美味しかったわ、ありがとう」
マリアナの手をやんわりと押し返し、逃げるようにその場を後にして部屋へと歩みを進める。


あの日以来、足に異変はない。
あくまで今のところは…だけれど。

けれど、また急に動けなくなってしまうのではないかと思うと…。



二女 エリーゼ - -
憂う心

        

学生であれば、本来授業を受けているこの時間。


体調を崩し、自宅療養を余儀なくされ、館へと戻ってからしばらく経つけれど
やはり、大勢の友人と過ごしていた日々に比べるとやや寂しさを感じる。

家族も、使用人だっている。
でもやはり、友人とは違う。。

それにお兄様は…
あの日以来、人を寄せ付けない雰囲気で、
妹である私でさえ、最近はまともに話をしていない。

昔は優しかったお兄様…いいえ、今でも優しいわ。
でもやはり、すぐに癒える傷ではないのでしょう…

…心の傷というものは。


最近は特に疲れているご様子だし…
ハインリッヒに頼んで、心が落ち着くような紅茶をお兄様に届けて貰おうかしら。



部屋の呼び鈴を鳴らそうとして、ふと、思い出す。

昔、こちらに戻ってから話し相手がいないと、リクに話した事があった。
それ以来、暇を見つけては来てくれていたのだけれど…

最近はリクが訪ねて来ていない。
忙しいのかしら?


そういえば、前にロイドと喧嘩をして、
怪我を負ってそのまま、私のもとへ来たことがあったけれど…

もしかしたら、また喧嘩をして今度は大きな怪我でも負ってしまったなんてこと…!

あの時は、大したことはないと言っていたけれど、不安で、心配で…

これからは仲良くしてね、と伝えたけれど、
やんちゃというか、少し喧嘩っ早いところがあるから…



あぁ、どうしましょう…!心配だわ。

そろそろ診察の時間の筈だし、ドクトルにリクの事を聞いてみようかしら。




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