フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
amulet
        


... ... フゥ ... ...



終った。

...長い一日だった。

こんな日になるとは、思ってもいなかった.....



エリーゼの様子を知りたかっただけなのに。

レオン叔父様に会って、
ちょっとカッとなってしまって、
命の価値ってなんだろうって考えたりして...

リーネ様の追悼パーティーに出た後
エリーゼを探すうち、
いつの間にかイヤリングを落としてしまって

それから...

...

それから...

... ... ...。



やめよう、思い出すのは。


あんな思いをするのは、もうたくさん。

あれは...

あれは一体なんだったんだろう?



それに、叔父様が気にしていた、あの男の子は一体... ... ...



...そのあとは、叔父様のラボでエリーゼに会うことが出来た。

でも、彼女はやっぱり多くを語らなかった。

なにかとても疲弊していて、目を泣き腫らしていて、
薬の作用かなにかで少し眠そうだったのもある。

私自身もまだまだ混乱していて、
彼女のために用意してきた言葉のひとつも思い出せなくて...

お姉様のことについて慰めてあげることもできなくて、
あまり長居はせずに帰ってきてしまった。

... これでよかったのかしら ...



ドレスを脱ぎ、イヤリングを外す。


—そうだわ、これも修理をしなくては。



ふと母の姿を思い出し、
引き出しの中の手帳の間から、昔の写真を取り出す。

この館で過ごすと決めたあの日から
あまりこの写真は表に出さずにいたのだけれど、
久しぶりにお母様の顔を思い出してしまって。


写真に写る、幼い私と、今は亡き両親の姿。

父、ダミアン・アンガス・ドランスフィールドと...

今は私の手の平にある青緑色のイヤリングを耳に飾った、
若き日のクレアお母様。

お母様は、今のお父様の教え子の一人だったのだという。

今のお父様やお兄様になんとなく後ろめたい気がして
ドランスフィールド家のものはあまり持ち込まなかったのだけれど、
どうしてもこれだけは手放すことが出来ない。



とくに、このイヤリングだけは...

...お母様が護ってくれている気がして。

悲しいことや怖いことがあった日は、
このイヤリングをつけたまま眠る。



今夜もまた、そんな日になりそう———



窓の外の夜空は、雲が月を覆い隠そうとしていた。



ゲスト ディーナ - -
colors
         

“ルーデンドルフ伯爵家ご息女
リーネ様 追悼パーティーのご案内”——



ルーデンドルフ伯爵家の執事の方から届いた
重厚な一枚の封筒に目を落とし、
やはりドレスを再考すべきか、頭を抱える。

...やはりこれでは相応しくないかしら?

青緑色のベルベットを配色した黒いドレスに、
やはり青緑色が印象深い、母の形見のイヤリング。

ちょっと派手過ぎるかしら...



エリーゼが療養している
ルーデンドルフ家所有のカントリー・ハウス
フリューゲル・デス・フレースヴェルグ—

私の本当の目的は、
突然ウェントワースを長期休学した
エリーゼの様子を見ること...

...だけど、
追悼パーティーの弔問客として伺うのだから
やはりもう少し色味は抑えるべきかしら。





...突然学園に休学を申し出たエリーゼの病状は、
教師・学友の 誰に聞いてもまったく詳細が掴めなかった。

元々おとなしい子だったから、
周りの子にも多くは語らないまま休養に入ったようだ。

彼女の姉・リーネが亡くなってからは余計に口数が減り、
体調不良もその頃から始まっていたという。



エリーゼ——

私がウェントワースを卒業してから、もう随分顔を合わせてない。

いったいどんな病気にかかってしまったというの?

最後に会ったときは、あんなに楽しそうにお喋りしてたのに。

長期休学しなくてはならないほどの体調不良って、一体何が...

伺ったとしても、もし 追悼パーティーにも参列していなかったら...?




唯一の望みは、彼女の治療にあたっているのが
私の義父・サイモン・ラザレス・マクファーソンの妻の弟である
レオン叔父様だということ。

もしエリーゼに会うことが叶わなくても、
彼に会えばなんらかの情報が得られると思う...。



...そういえば、叔父様にお会いするのも随分久しぶり。

叔父様のことだから、私の名前なんて忘れてしまっているかしら?

...そうだわ、




やっぱりドレスは、これでいこう。




私らしい、青緑色。

亡くなった母も好んで身に着けいてたこの色。
小さな頃から、私にとって欠かせない色なの。

このドレスを見たら、叔父様も私に気がついてくれるかも。

幼い頃から、他の子のように
ピンクや赤を好まない私を
いつも叔父様は面白がってた。

—それに、この世界は生きている人のものだから。


待ってて、エリーゼ。
 



ゲスト ディーナ - -
turquoise
         

人の命...

いのち。

生きることの意味... ... ...




―あれからずっと考えている。




...考えたことがなかった訳じゃないわ。

むしろ、

お父様の死...
そしてお母様の死以来、

何度も 何度も 繰り返し繰り返し
ずっと考えてきたことなの。




お父様は、事業に失敗して
リーネ様と同じく、自ら命を...

お母様は、レオン叔父様のお姉様と同じく、
病気が原因で、みるみるうちに弱って...

だから、エリーゼのことも
なんだか他人事として見ていられなかったの。

だから、追悼パーティーを口実に
ルーデンドルフ家に足を運んでみたの。




なのに...


あのとき


一瞬わからなくなった... ... ...




―――レオン叔父様。


あの人は、やっぱり...ちょっと変わった人だから、
「少しだけ」言い方が適切ではなかっただけで、
悪気があった訳じゃないというのはわかるの。


...でも...




「誰にでも死は平等に訪れる。
 命あるものは、いつか死を迎える...
 ...それは絶対的な帰結。
 誰でも知っていることだろう?

 ...だったら、受け入れるしかないよね。」




そんなことを言われたら、わらかなくなってしまった。




「とはいえ、その訪れ方は千差万別。
 唯一、抗えるとしたら、そこくらいなもんだよね。

 だから、少しでも長く、その命をこの世にとどめておくために...
 出来る限りのことはしたい。」




―――なんて返したらいいのかわからなくなったの。




ただ、

ただ...


「不謹慎」だって批難した自分が...


... ...急に恥ずかしくなって。

...苦しくなって。




「ごめんなさい」しか言えなかったわ。


なぜ謝っているのかわからないのに
「なんとなく」謝罪の言葉を口にするだなんて、
まるで小さな子供みたいだと自分でも思ったわ。



でも、
叔父様は
笑っていたわ。



「そんな風に思われるエリーゼは幸せ者だね」、と...






そうね。


できれば、黒いドレスを着る機会は
多くない方がいいに決まってる。

誰かが病気になったら、
どうしたらいいのかを考えて、
お医者様は精一杯の手段を尽くして、私は...



私は、

チュルキスのドレスを着て、会いに行くわ。



話を聞いてあげる。

手を握ってあげる。

不謹慎だって言われても、笑顔を届けてあげる。




「“僕は僕のやり方で...”

 ―――そう、私も、私のやり方で」




自分を鼓舞するように、

ゆっくり、レオン叔父様の言葉をなぞってみた。

 



ゲスト ディーナ - -
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