フリューゲル・デス・フレースヴェルグで起こる日々の出来事・・・
正装
        

『リーネの追悼パーティーでは正装で参加するように』


くっだらねぇ

何が追悼パーティーだ


目に見えてエリーゼの落ち込みが日に日に酷くなるのは気がかりだが…



身内が死んで


 悲しい


と感じたことがない



今どこで何をしてるか解りもしない親が死んだところで

悲しいと思うこともないだろう


顔も知らない父親と

顔も思い出したくない母親だ



母親はオレを殴りながら怒鳴り散らしていた


コブ付の売春婦なんて売れるわけもなく

酒に逃げ

ドラッグに逃げ

それを買うために自分を売る

そんな悪循環


母親らしいことをしてもらった記憶もない


邪険にされ

捨てられ




違う



あんなババア

オレが見限ったんだ




家族なんて


知らない


知りたくもない






無駄に体のサイズにあったコート

似合いもしない白いシャツ

結びなれないネクタイ

黒いズボンと黒いブーツ


これが今のオレの

『正装』

だなんて


昔の自分からは想像も出来なくて

つくづく

この館と自分は不似合だと

思い知らされる



庭師 リク - -
気まぐれ
         


夏が終わって

秋が来て

例年であれば、エリーゼは学校に行っているはずだ


オレは学がねぇからよく知らない

まあ知ったこっちゃねぇんだが


夏休みは終わったはずだ

でも

エリーゼは


学校の寮に戻る気配がない



耐えかねて、こないだエリーゼに


「未だ休みなのか」

と聞いたら

「違う」

と言う


「学校は良いのか」

と聞くと

「よく分からない」

と言う


ただ、


「少しだけ体調が悪い」


と困ったように微笑った



それ以来、エリーゼはずっと屋敷にいる



窓の外から時折伺えるエリーゼの横顔は

不安げで

憂鬱そうで

退屈そうで


気の毒に思った


だから

親方に頼んでエリーゼの部屋に花を飾って貰った


次の日


窓越しに目が合って

こちらに小さく手を振るエリーゼを見て


頬が緩むのが解って


自分らしくなくて


慌てて顔を背けて


アホらしいと


舌打ちした



庭師 リク - -
記憶
         

ゴードンのジジィに連れられて初めてこの屋敷に来た時



絶句した。



お世辞にも良い生活をしていたとは思わないが

今まで自分がいた世界と『そこ』はあまりにも違っていた。


青々と茂る庭も

荘厳な建物も

目の眩みそうな内装も

輝く調度品も

触れた事もなければ見た事もなかった。


実際に見てみたって、興味がなかった。


やっぱり自分には縁がないものにしか思えないから。



だから

エラソーな貴族の『お坊ちゃん』なんか紹介されてもくそくらえと思ったし

ヒラヒラしたドレスを着た『お嬢さん』に至っては

同じ人間だって事すら信じられなかった。


ただ・・・

そのヒラヒラしたドレスに隠れるようにこちらを伺う

金色でふわふわしたそれは

ライトブルーの硝子玉みたいな瞳に

畏怖と

不安と

興味と

いろんな表情をくるくるさせていたのが印象的で


それを見て

少しだけ

ほんの少しだけ


自分と同じ何かを見付けた気がして




少しだけ




安心したんだ・・・



庭師 リク - -
regret

         




左頬が痛む。

別に大した怪我じゃねぇのに。





「またお前か」



_____そいつはオレの台詞だ。



「そのつもりでいろ」



_____知ったことか。



「待って!」




_____嗚呼。

エリーゼの声が耳に残ってる。



知らない。

知らない。

知ったことか。


何が貴族だ。

何がパーティーだ。



_____くそくらえ!!





殴られた左頬が痛い。




壁を殴った右手が痛い。





…痛い。




庭師 リク - -
enemy

         




下町にいた頃は、力こそが全てだった。


 『地獄の沙汰も金次第』


なんて言葉もあるが、金だって力さえあれば手に入れられた。

 

 

 


―――それが今じゃどうだ。

 


膨大な金で、力すら捻じ伏せられてる。

 


…貴族ってやつはいつもそうだ。

自分じゃなんにもしねぇクセに、金だけは有り余らせてやがる。

その日喰うパンを手に入れるための苦労すら知らねぇ。


ここにいるやつ等は皆そうだ。


泥だらけになって、痣だらけになって、這いずりまわった事もない。


オママゴトをしてやがる。

 

クソコックも

ヘボ医者も

人形野郎も


クラウス…様も

 


――――――皆、敵だ。

 

 

「       」

 

 

…解ってるよゴードンのジジィ。

約束だ…。


 

 

 :
 :
 :

「おいバンビーノ!敬語は使えるようになったのか!?」

「うるせぇ親方!
 オレはそんなチャラチャラした事はしねぇっつってんだろ!?」




庭師 リク - -
Liberta

         リク01

 

「納屋の前に麻袋があるから、取ってこい

 ぐずぐずしてんじゃねぇぞ、バンビ!」

 


親方に言われて納屋に来たは良いが…

なんだこの量…!

軽く見積もって10…いや、15はある。


「馬鹿力が……クソッ」


もちろん、オレだって非力なつもりはない。

腕っぷしにはかなり自信がある。

…が、親方はオレの遥かに上を行く馬鹿力だ。


ゴードンのジジイに拾われてこの屋敷に来てから大分経つが、

腕っぷしで親方に勝てた試しがない。

最初の頃は無鉄砲に突っ込んで返り討ちにあって、骨を折ったこともある。

今でも、親方に逆らおうもんなら殴り飛ばされちまう。


「大体、こんなに大量にどーすんだよ…」


途方に暮れかけていると、オレを呼ぶ声がした。


「ワンッ!」


遠くから駆け寄って来る黒い塊。


「ワォンッ!」


無邪気にオレの周りを走る姿に、思わず毒気が抜かれる。

短い息遣いで勢いよくオレの前に回り込むと、意思表示に姿勢を低くした。

オレがしゃがみ込んで頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細める。


「悪ィ、リベルタ……今はお前と遊んでらんねぇんだ。

 早く行かねぇとまた親方にぶん殴られちまう」

「ゥン?」


オレに遊ぶ意思がないことが解ると、リベルタはゆっくりと起き上がった。

そのままオレの足に寄って、鼻息を荒くした。


「なんだ?遊ばねぇぞ?」


フン、フンと怒るように鼻を鳴らして、オレに視線を送る。


「……早く片付けて相手しろ、って事か?」


顔を撫でてやると、また嬉しそうに擦り寄って来る。


「しょーがねーな……」


確かに、このままボーッと途方に暮れても仕方ねぇ。

さっさと片付けちまうか。


ある程度の重さを覚悟して、麻袋を持ち上げる。

何とか持ち上がらないことはない。

台車か何かに乗せて、一気に運べそうだ。


「…っつてもなぁ……何往復したらいいんだ…」


小さく溜め息を吐くと、リベルタが大きく吠えた。




庭師 リク comments(0) -
1/1PAGES